作家でもあり美術館のフリーキュレーターもされている原田マハさんは、アートへの愛を小説以外にも様々な場所で表現し続けられています。最初にマハさんの愉快で魅力的なプロフィールと、次に彼女が執筆したおすすめのアート小説を3つご紹介します。
原田マハのプロフィール
1962年に東京都小平市で産まれました。3歳の頃から絵を描くことが大好きで、好きな画家はパブロ・ピカソです。しかし当時は、「下手くそだな〜私の方が上手なのに!」と、ピカソの奇天烈な絵に対してそう思っていたそうです。その頃から、原田マハさんにとってピカソは魅力的なライバルであり導師にもなりました。
1981年に関西学院大学文学部に入学。3年生の時に見たアンリ・ルソーの画集に対し、またしても「下手くそだな〜。」と思います。しかし、ルソー独特の絵の面白さと人間性にすっかり魅了され、いつしか彼を題材にした物語を書きたいと思うほどになっていました。卒業論文は耽美派代表、谷崎潤一郎の「痴人の愛」。マハさんがあの小説をどの様に分析されていたのかすごく気になりますよね。
本格的に現代アートの道へ
1986〜2002年頃、元々好きだった現代アートへの愛に火がつき、通りすがりの、オープン準備をしていた美術館に雇用申請。度胸を買われ見事就職します。1987年には兄が子供の頃からの夢・小説家デビューを果たし、その2年後に自身が結婚する等、おめでたいことが続く期間でした。それと同時に2度の転職や、仕事での過密スケジュールに、早稲田大学美術史科に入学して猛勉強の日々等、息をつく暇もない期間を過ごした原田マハさんです。
しかし、それが功をなしたのか、2000年には当時勤めていた会社がニューヨーク近代美術館(MoMA)と提携を結び、MoMaインターナショナルグループの一員としてニューヨークに駐在します。このままグローバルなライフスタイルへまっしぐらと思いきや、2年後、40歳になる年で退職します。理由は「女の人生は40代がプライム。いちばんやりたいことを40代でなしとげる」です。マハさん特有の快活さ溢れる素敵な言葉ですね!それと同時に、いくつになっても夢を追いかけ続けるんだ!という強い信念も感じられます。
日本ラブストーリー大賞を受賞
そして2002年〜2005年。直感行動が多めな原田マハさんですが、美術館キュレーター退職後の展望はありませんでした。しかし持ち前の度胸で、未経験のカルチャーライターとして仕事を始め、また数々のアートイベントを多くのクリエイターたちと共に成功させました。
ある日「働く女性のインタビュー集」を作るため、沖縄へ取材に出向きます。取材も終わり砂浜でブラブラしていると、「カフー」という名前のラブラドール犬を連れた男性と会い、少し会話をしました。その男性に、「カフーは幸せを意味する」というのを聞いてから、執筆への熱と物語の筋がもうできていました。そして見事、2005年11月30日「カフーを待ちわびて」というタイトルで日本ラブストーリー大賞を受賞しました。
「カフーを待ちわびて」にて作家デビュー
2006年3月20日に「カフーを待ちわびて」で作家デビューを果たしたマハさん。2007年には亡き愛犬に捧げる「一分間だけ」をタイトルに出版。2008年には怒濤の速さで新刊を7作も出します。翌年の秋には「カフーを待ちわびて」が映画化される等、順風満帆に作家人生を歩み始めていました。
そして来たる2010年…アンリ・ルソー没後100周年にあたるこの年に、関学在籍中から思い描いていたルソーの物語「楽園のカンヴァス」を書き上げようと、パリに長期滞在します。そしていざ!筆をとって書き上げたのが「風のマジム」と「旅屋おかえり」。
なんとマハさん、「楽園のカンヴァス」の最終回を書き終えるまでに5作品も刊行してしまいました。それだけ大事に温められた作品ということでしょう!そしてそれが功を成します。「楽園のカンヴァス」刊行後はインタビューが途切れることなく続き、山本周五郎章を受賞するまでに至りました。
そして遂に、2016年3月28日、ライバルでもあり導師でもあったパブロ・ピカソが描いた「ゲルニカ」を題材にした小説「暗幕のゲルニカ」が刊行されました。作品の詳細は後ほどご紹介します。兎にも角にも、長年の対決ピカソへの挑戦は一先ず幕を閉じましたが、現在もマハさんは、執筆から講演会、オンラインイベント等、「アート」が持つ力と強いメッセージ性を信じて、活動し続けています。
参考URL:https://haradamaha.com/
原田マハ執筆 おすすめのアート小説
原田マハさんがどのようにしてアート作家になったのか、分かっていただいたところで、続いてはおすすめのアート小説をご紹介します!すでに興味のある方もそうでない方もぜひ手に取ってみてくださいね!
原田マハのアート小説 おすすめ①暗幕のゲルニカ
「ゲルニカ」を筆頭にアートが秘めている影響力を感じられる作品。およそ83年前に制作された絵画が、今もなお現代の政治や国を動かす力があると信じさせてくれるような、原田マハが書くおすすめの半フィクションストーリーです。
あらすじ
ニューヨーク、国連本部。イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から、「ゲルニカ」のタペストリーが消えた。MoMAのキュレーター八神瑶子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。故国スペイン内戦下に創造した衝撃作に、世紀の画家は何を託したか。ピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去と、瑶子が生きる現代との交錯の中で辿り着く一つの真実。怒涛のアートサスペンス。
見どころ
ピカソを渦巻く「情」の数々が描かれています。ピカソを愛した女たちの愛情や友情、純情、熱情、哀情、交情。それぞれにピカソを思う気持ちは異なりますが、想い、親しみ、尊ばれているのがすごく伝わってきます。
原田マハのアート小説 おすすめ②楽園のカンヴァス
山本周五郎賞受賞作。ミステリーだけど、それだけじゃない、散りばめられた伏線や複雑な謎解きがメインなザ・ミステリー小説ではありません。あらすじにもある通り、「『夢』に酷似した絵」の謎をルソーの体験ストーリーを通して紐解いていくと同時に、ルソーやルソーに関わった人達(昔も今も全て)の人間模様を描いた、心温まる小説でもあります。
あらすじ
ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは…。
見どころ
冒頭1ページ目からピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌが描いた「幻想」を情緒的に表現した一文から始まる、的確な描写。次にエル・グレコの「受胎告知」。この作品の題名や構図、保存状態でさえも称賛する表現があり、見たことのない者からすると、1度はこの舞台となった大原美術館でその絵を味わいたいと思うほどに魅力が伝わってきます。
原田マハのアート小説 おすすめ③たゆたえども沈まず
原田マハが、ゴッホとともに闘い抜いた新境地、アート小説の最高峰である作品です。実際に主人公である林忠正がゴッホに接触した記録は残されていませんが、弟のテオ以外にゴッホの価値を認めて、アートというシビアな世界を愛し、突き進んだ同志がその時代、同じ場所にいたというのは感慨深いものがあります。
あらすじ
19世紀末、パリ。浮世絵を引っさげて世界に挑んだ画商の林忠正と助手の重吉。日本に憧れ、自分だけの表現を追い求めるゴッホと、孤高の画家たる兄を支えたテオ。四人の魂が共鳴したとき、あの傑作が生まれ落ちた―。
見どころ
ゴッホは自分のスタイルを認めてもらおうと奮闘し、現代でようやく日の目を見ます。ゴッホが突き進む「光」だとすると、それを金銭的にも精神的にも支えた弟・テオは「影」の働きをしました。まるで突き進む光に支える影。その他にも、フランス芸術アカデミーに「ジャポニスム」の風穴を開けた日本人、林忠正と架空の存在、加納重吉が、ゴッホの才能を見抜き、支援、そして名言を残しています。
そして,もう一つの見どころが、架空の存在、加納重吉を登場させた意味。当時のゴッホもテオも孤独だったに違いありません。しかし、書物「ゴッホのあしあと」でマハさんは、加納重吉を登場させることで、テオの孤独と悲しみは幾分か癒されればと願いを込めたと語っています。そしてゴッホに、加納重吉という「日本」であり、「原田マハ」でもあり、そして「読者」でもある化身が、「あなたは1人じゃない」というメッセージを130年後に伝えたかったと話しています。
何か感じるものに出会える 原田マハのアート小説
原田マハさんのプロフィールを見てみると、度胸で何でも乗り切る!と自分の直感に素直に従うというのが特徴です。それと同時に「情熱」の人でもありますよね。自分の好きなことや、やりたいことは我慢や言い訳をせずにひたすら真っ直ぐに駆けていきます。マハさんも情熱の人だからこそ、ピカソやルソー、ゴッホ等、情熱の代名詞みたいなアーティストたちのお話を、まるでその場で起こっているかの様に書けるのでしょうね。尊敬と慈愛を持ってアーティストと接するマハさん。読み終えた後には暖かいもので満たされていること間違いなしです。